以太以外

蒼褪めた巨漢は笑う水澄んで 以太

飯田有子『林檎貫通式』書肆侃侃房

〈女子だけが集められた日パラシュート部隊のように膝を抱えて/飯田有子〉ただ落下するために。〈足首まで月星シューズに包まれていさえすればいさえすればね/飯田有子〉それさえあればだいじょうぶな気がするムーンスターの靴。〈オーバーオールのほかなにも着ず春小麦地帯をふたり乗りで飛ばそう/飯田有子〉地理Bで習ったような単語、カナダと合衆国の真ん中くらい。オーバーオールでモーターサイクルだと、夏じゃないと寒いかな。〈胸のそれいえ読まなくていい吊革に両の手首を吊る人は優しい/飯田有子〉だらしなさそうだけど電車でそんな格好をできる人は変に気張っていないから。〈砕かれたピアノのことを言うときに君の後ろの若葉が騒ぐ/飯田有子〉若葉にピアノの音の余波がしみついているのだろう。〈造られた薔薇にたちまち汗浮かび憧憬器官ってそれ?これ? いいえ/飯田有子〉皮膚が憧憬器官なのかも。〈それどけてあたしに勝手に当てないでそんな目盛りあたしに関係ない/飯田有子〉メートル法委員会は私の関係者ではないのだから。私は私の尺度で測る。〈涙の粒まつげにつけた人を抱く二人三脚の紐とかぬまま/飯田有子〉もう離れられない。〈向かい風に吹かれる頬のやや高くまだわからないって顔をしている/飯田有子〉そのまま吹かれている。〈自動ドア二つにわれてきみは夜のセブンイレブンより羽化したる人/飯田有子〉自動ドアを割れる蛹と見立てているのか。コンビニへ入るたび羽化できる。〈反乱軍、帝国軍と名付けたる二匹の金魚を祖母可愛がる/飯田有子〉銀河英雄伝説の戦艦めく金魚。「ファイエル!」〈二十一世紀夏のさかりの食卓のちりめんじゃこにみんな眼が無い/飯田有子〉なんか未来で遺伝子操作されったっぽいよ。〈性交はしずかで真冬のかたつむりきりきり巻かれる音がきこえる/飯田有子〉

配達帰りのバイクを停めておじさんがなにかの祠に合掌をした 飯田有子