以太以外

蒼褪めた巨漢は笑う水澄んで 以太

澤田和弥『革命前夜』邑書林

浜松市内にはじめて新型コロナウイルス感染者が出た日、澤田和弥『革命前夜』邑書林を読む。〈鳥雲に盤整然とチェスの駒/澤田和弥〉黒白の無機質さと鳥雲の灰色と。盤の直線が交わる消失点へ鳥は引く。〈空缶に空きたる分の春愁/澤田和弥〉春愁は残量ではない、「空きたる分」という捉え方が面白い。〈恋人の臍縦長に花の雨/澤田和弥〉縦長の臍は美人を連想させる、花の雨のような華やかな湿り気。〈とびおりてしまひたき夜のソーダ水/澤田和弥〉ソーダ水の瓶に夜景が透ける、そんな透明な存在としての自己がある、まだある、発泡しながら。〈かの胸は簡単服に収まらず/澤田和弥〉そんな胸に、子安北交差点で出合った。〈夜の秋古きノートに五賢帝/澤田和弥〉高校時代のノートか、古代ローマの都市へ思いを馳せる晩夏、ポール・デルヴォーの絵画のような。〈秋水や遠州弁母語とする/澤田和弥〉「立て板に水」など言葉は水に喩えられる。ふいに口をついて出た「だもんで」「〜だに」への懐かしさに心が澄みきるような思い。〈深秋や本に二つにバーコード/澤田和弥〉熱意とともに生まれた言葉たちが商業に組み込まれていくことの二つのバーコードという寂しさ。〈手袋に手の入りしまま落ちてゐる/澤田和弥〉斬り落とされたか、単に手のかたちに膨らんでいるだけか。〈乳房の豊かすぎたる雪女/澤田和弥〉温度のなさそうな雪女に繁殖力が備わる不思議さ。

男娼の錆びたる毛抜き修司の忌 澤田和弥


澤田和弥サイン本