以太以外

蒼褪めた巨漢は笑う水澄んで 以太

藤永貴之『椎拾ふ』ふらんす堂

第3回浜松私の詩コンクール浜松市長賞をいただけるとハガキで知らされた日、藤永貴之『椎拾ふふらんす堂を読む。〈一滴を余すことなく瀧凍てにけり/藤永貴之〉この全と一の対比へのこだわりは〈瀧水の全部が粒に見ゆるとき/藤永貴之〉はもちろん〈若布刈舟一つ遅れて加はりぬ/藤永貴之〉にも見える。〈閉園の楽とぎれ噴水とぎれ/藤永貴之〉同時にとぎれたのではなく次々に、賑やかさと勢いと、それらの消滅と。〈穴惑流れに落ちて流れけり/藤永貴之〉惑っているからコントのように流れけり。〈黴の宿釘一本の帽子掛/藤永貴之〉宿としては意外性に満ちており、黴の宿ならもしかしたらありそうかなと思える程よい感じの、武骨な釘一本。〈流星やボンネットまだあたゝかく/藤永貴之〉流星の余韻とボンネットにある何かの余熱との共鳴。〈冬雲のとぎれめのなくひろごれる/藤永貴之〉「とぎれめのなく」に呼吸できないほどの厚ぼったさと織物めく繊細さが同時に共存する。〈三日月の何照らすなく落ちかゝる/藤永貴之〉「何照らすなく」はいちいち心に留めないということ。こだわりなく落ちる。〈蟷螂の創ひとつ無く死んでをり/藤永貴之〉中七と下五はよく考えれば矛盾しないけれど、創ひとつで死ぬこともあるのだから一読ではふと違和感が芽生えるかもしれない。

伊都國の夜の暗さや牡蠣啜る 藤永貴之