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以太以外

病名は人間性や夕野分 以太

竹岡一郎『けものの苗』ふらんす堂

六連勤最後の日、竹岡一郎『けものの苗ふらんす堂を読む。〈雀の子風俗嬢が米をやる/竹岡一郎〉コンビニ弁当の油でテカテカ光る米粒を箸で飛ばして「やる」。社会の底を覗く視線がある。〈僕の巴里祭ツナ缶開ける音だけして/竹岡一郎〉巴里の羅甸語地区のホステルなどは壁や扉が厚く、音から閉じされている、「僕の」と限定されるような、感じがする。巴里の建築の重々しさと「ツナ缶」の蓋の弱々しさとの比較が良い。〈軍払下品として人魚冷ゆ/竹岡一郎〉動物兵器か、慰安用の「副官」か。〈主権即ち人魚に在れば吹雪く国会/竹岡一郎〉死者の民主主義めいて、主権在「亜」民。〈竹馬を基地のフェンスに立てかける/竹岡一郎〉遊戯と軍事の隣接という日常、〈あかつきの雪女抱く雪女/竹岡一郎〉男の世界も人間の世界も、夜のように邪悪で、だからこそあかつきは、優しく抱く。〈夏痩せて未来しか見ぬ老女かな/竹岡一郎〉未来しか見ていないのはもはや老女と言えないのでは、「夏痩せて」が呪術的。

灯台の合鍵として雁の羽 竹岡一郎