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以太以外

病名は人間性や夕野分 以太

葉冠記

※ 新型コロナウィルス感染症の診断や治療に関する詳しい情報については、厚生労働省国立感染症研究所のサイトを参照してください。

葉冠記は妻が新型コロナウイルス感染症の陽性者になり私が濃厚接触者となってから、家族全員が陽性者となる記録である。2022年夏から秋にかけて第七波の感染者数が高止まりしているまっただ中であり、日本国民の1/10以上が感染者となって、もはや感染者となることが特異ではなく普通になった頃の話だ。ロシアによるウクライナ侵攻は続行中、安倍晋三元首相暗殺事件後の国葬開催をめぐる政治不信が渦巻き、社会不安や孤独感から生まれた反ワクチン派や反マスク派などの声も大きくなっている。ちなみに夫婦ともにワクチン接種3回*1済み、児は接種年齢に達していない。それ以前のコロナ禍日記は鹿蟹記へ。

8月22日(月)

天竜川を渡って職場へ到着した直後、目覚めた妻が38.9℃の発熱という連絡を受ける。管理者に報告したところ濃厚接触者になる可能性があるという理由で帰宅指示が出る。素早く指示が出たのは先週金曜日に37.0℃の同僚が出勤し夕方に陽性が判明した騒ぎがあったからだ。

天竜川を逆に渡って7時半に帰宅。同じ区の耳鼻咽喉科が発熱外来を受け付けていたので妻が電話して予約をとり私が車で送る。検査の30分前は何も食べてはいけないらしい。妻は耳鼻咽喉科の裏口から入り、私は駐車場で児と待つ。抗原検査の結果、妻は新型コロナウイルスの陽性。昨日を0日として10日間の自宅待機*2となった。私と児は症状がないので検査は受けず濃厚接触者として昨日を0日として5日間の自宅待機になった。薬局前の駐車場で車窓越しに妻が処方された薬はカルボシステインやアストミンやカロナールなど一般の風邪薬だけである。

家族に陽性者が出た場合は個室に隔離が基本だが、弊家では無理なので日常の延長で生活することにした。児はまだワクチン接種年齢に達していない。将来また大流行が起きたときに児の身体が「あ、これママからもらったやつだ」と新型コロナウイルスの型を覚えて免疫機能を働かせてくれるようになっていれば幸いだ。

それから一日中妻は寝ており、家事や児の世話は私がする。余暇は谷川健一『日本の地名』『日本の神々』岩波新書を読んで過ごす。民俗学は近所、三遠南信くらいの話だと興味を持って読める。(浜松市感染者543人)

8月23日(火)

8月上旬に妻の会社は懇親会を居酒屋で催した。人数とテーブルの都合でぎゃうぎゅう詰めに座らされて以降、十数日で三分の一にあたる社員がコロナ陽性になったという。妻は懇親会に参加していなかったけれど同僚*3からうつされたようだ。これは人災である。

運の悪いことに今日は地域的に昼は断水である。朝のうちに浴槽に水を貯めて、飲料としてルイボスティーポカリスエットのボトルを確保する。咳の出る妻を寝かせるためと断水で育児はたいへんなのとで私は児を連れて清掃工場のある篠原町へ車で赴き総合水泳場トビオで泳ぐ。

 雨降ればプールは秋の音となる 以太

帰宅してから、山内志朗『目的なき人生を生きる』角川新書を読む。文章が青い。喉が微かに違和感があるので緑茶を飲む。児にカードゲーム*4のルールを説明しても、どうしても親に勝ちたい児の前ではルール説明は声の風 flatus vocisとなる。(浜松市感染者931人)

8月24日(水)

妻の発熱は収まったようだ。でも咳は出るのと下痢が続くらしい。晴れたので私はまた児と車で篠原町のトビオへ赴き、泳ぐ。それから児が昼寝をしないので天竜川を渡り、竜洋の大中瀬にある昆虫館やその横の誰もいない公園で児を遊ばせる。

 残暑から淡い鎖が垂れている 以太

帰宅後、全身に倦怠感。特に両脚の体幹が疼くので16時に私の体温を測ると38.0℃だった。児は36.4℃。水曜午後なので発熱外来は休みか、開いているところも予約受付を終えている。陽性でも陰性結果が出ると噂の東亜産業の研究用抗原検査スティックで私の唾液を調べたら陽性である。夫婦共倒れである。食材は鯖缶とツナ缶を買いだめしてあったのでなんとかなる。

未来のことで心を悩ますな。必要ならば君は今現在のことに用いているのと同じ理性をたずさえて未来のことに立ち向うであろう。(マルクス・アウレーリウス、神谷美恵子訳『自省録』岩波文庫

夕食後、妻が処方されたカロナール200mgを服む。そういえば、従来言われていたような味覚障害や嗅覚障害はない。夜のうちに体温は38.5℃まで達する。(浜松市感染症者2028人*5

白き皿/拭きては棚に重ねゐる/酒場の隅のかなしき女 石川啄木

8月25日(木)

朝起きたときの私の体温は38.1℃だった。高熱があったためだろう頭が疼き、痰が出る。同じ区の病院の発熱外来へ車でひとり赴く。大きな病院なので待たされる。看護師から電話で問診を受け、車を移動し、青い防護服の看護師から鼻腔の奥へ綿棒を入れられてぐりぐりと粘液を採られ抗原検査となる。昨晩カロナールを服んだことを伝えると、カロナールは私の体重だと500mgないと効かないらしい。検査後一旦帰宅しろと言われたので帰る。自宅の駐車場へ着くと医師からの電話診療が来る。陽性だった。帰宅するとイオンマックスバリュから食料の宅配が届いていた。これでしばらく持つだろう。

昼食をとっても病院から薬と会計の連絡はなく、映画「日日是好日」を観る。樹木希林は出演する日本映画をことごとく観られる映画に変えてきた。この映画には興味を示さないと思っていた児が思いのほか茶道を気に入っていた。和菓子を食べるシーンがあるからだろう。鑑賞後に私の体温を測ると37.5℃である。

「ノミスマ(世間で通用している慣習、制度、しきたり)をパラハラッテインせよ」(山川偉也『哲学者ディオゲネス講談社学術文庫

病院から電話があり、車で病院へ向かう。検査と電話診療は約2800円であったが、処方された風邪薬アストミンとカルボシステインは無料だった。

 秋風や有熱患者様とあり 以太

夕方から洟水と嚔がではじめる。それと前からの咳と痰。だが体調はだいぶ恢復する。ワクチンを3本も打っていればコロナはタチの悪い風邪でしかない。そういえば児はなかなか発症しない。(浜松市感染者1546人)

8月26日(金)

朝に体温は36.3℃まで下がる。洟水と咳と痰が残る。保健所から連絡があると昨日の病院から聞いたけれど、まだない。昼前に群馬県の本家*6から支援物資が届く。

死は人生のできごとではない。ひとは死を体験しない。(ウィトゲンシュタイン野矢茂樹訳『論理哲学論考岩波文庫

昼食後に車で浜名湖を反時計回りに一周する。途中、入出あたりで児が「首*7がいたい」と言い出す。ぐったりと昼寝した児の身体を触ると熱い。帰宅して児の体温を測ると39.2℃ある。大人と同じで発熱から16時間たたないと検査できないので通院は明日となる。アセトアミノフェン坐剤を入れると元気になる。しかし、幼児の看病という難題がはじまる。

夕方に私の体温は37.3℃にぶり返す。かつ咳がひどい。熱が長引くのが新型コロナウイルス感染症*8の特徴か? 職場へ架電して私が濃厚接触者から陽性者になったこと、次の出勤日が9月5日(月)になったことを告げる。岸田首相が自宅療養期間を10日間から7日間へ縮める前のことゆえ。長期間の欠となることで職場は大変になるだろうけれど正社員を共働きせざるをえない薄給に抑え、配偶者勤務先からの感染リスクへの管理を怠った会社の責任である。

夕食にゼリー3個だけを食べて児はみずからベッドに寝転ぶ。未だかつて自らベッドに倒れ込むことはなかった。そして、息苦しそうにしている。ワクチン未接種なので辛かろう。妻は申し訳無さそうである。

夕食中に保健所から第一報がショートメッセージで来る。22時に児の体温を測ると40℃に達している。坐剤を入れる。(浜松市感染者1052人)

8月27日(土)

早朝、児の体温は39.9℃。朝に38.8℃に下がったけれど辛そうなので最後の坐剤を入れる。土曜朝は検査をしてくれて待ち時間のなさそうな小児科が近所でなかなか見つからず、佐鳴台の小児科へ家族3人で赴く。児は抗原検査で陰性だった。処方されたのは解熱用のカロナール100mg*9だけ。陽性になっても薬が変わることはないので陰性でこのまま熱が下がったら陰性のまま通そう*10と帰路に夫婦で決める。しかし帰宅後、小児科から着信がある。「遅れて線が見えてきた」という。なんだそれ。でも、これで児も陽性となる。それから児の体温は39℃を下回らず、キウイとサクレ・オレンジを食べた他はほとんど寝て過ごす。

昼過ぎに厚生労働省と保健所からショートメールが届き、My HER-SYSに登録する。療養証明書をスクリーンショットできるようになった。これで自宅療養期間終了後に保険金請求できる。

児はほとんど高熱で寝ていたけれど、私の喉の痛みや咳や洟水は夜になるまでに気にならなくなるほどに恢復している。妻もほぼ全快である。(浜松市感染者1097人)

8月28日(日)

朝の私はやはり痰がからむし、洟水も出る。すこし歩いただけで疲れる。一方で、児の体温は37.8℃に下がる。そして、カロナール100mg服用は昨夜の一回きりなのに昼には36.7℃まで下がる。食欲も回復する。午後にはしゃぼん玉で遊べるようになった。喉の痛みもなくなったようで、咳も嚔もない。

暮れ空に溜井の光り秋燕 飯田蛇笏

私はやることがなさすぎて朝鮮中央放送のアナウンサー声真似を練習する。夜には大河ドラマ「鎌倉殿の13人」を観る。源仲章*11が出てきたとき「なぜ畠山重忠*12が京に?」と思ったら他人の空似だった。(浜松市感染者1145人)

8月29日(月)

八日目の朝。深夜に絶叫していた児の体温は36.7℃、もうぶり返さないだろうということで家族3人の葉冠記を終える。あとは3人とも体力が落ちているのでその恢復を目指すだけだ。

ラテン語のcorona

『改訂版 羅和辞典』研究社2021

*1:すべてモデルナ、3回目は2022年3月19日

*2:発熱は20日(土)からあった。

*3:親の意向でワクチン未接種、40℃近い発熱と肺炎。

*4:TRIO APARTMENT

*5:一日だけだと佐賀県岩手県の感染者数より多い。

*6:義実家

*7:喉だろう。

*8:咳由来以外の喉の激しい痛みはないのでおそらくオミクロン株の変異株である亜型BA5系統

*9:粉薬である。

*10:登園開始が早くなる

*11:生田斗真

*12:中山大志