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以太以外

病名は人間性や夕野分 以太

中日歌壇中日俳壇2021年1月31日

島田修三選第一席〈新しき齢となればそのページ改めて読む『臨終図巻』/松本秀子〉評では山田風太郎『人間臨終図巻』とのこと。第二席〈鍬を振る媼その声甦りつつ田畑は更地へ均されていく/郷幸子〉不耕起栽培が叫ばれる今だが、かつては人の手によって田畑は維持されてきた。第三席〈ジャングルにオランウータンの孤児たちの学校ありと聞けば嬉しも/生路聡〉長野・大桑より。オランウータンは森の人の意だ。霊長類仲間への視線がある。〈数字のみ無味乾燥に並びたれど心ときめく時刻表の旅/松岡凖侑〉時刻表は長編小説だ。〈みどり児を撫づるが如く指先に洗ふ三寸の春のななくさ/高井佾子〉仮名に開かれたみどりとななくさの共鳴。〈初時雨・末枯れ野・木枯し・虎落笛眩しき言の葉連れて初雪/佐賀峰子〉冬も色がある。小島ゆかり選〈耐えている長い月日も歴史には多分一行コロナ流行/林建生〉人類史の転換期にならなければ歴史教科書にも載らないかもしれない。栗田やすし選第二席〈明日よりの採用通知七日粥/浅井厚視〉新入社員は何歳になっても落ち着かない。〈出漁を見送る老いの毛糸帽/岡島斎〉潮風にその顔は罅割れている。〈写経する筆の軽さよ寒椿/石川和男〉水茎ということばが似合う。長谷川久々子選〈新聞や抱いてくばりぬ小雪闇/松田勝平〉雪に濡れないように。