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以太以外

病名は人間性や夕野分 以太

赤野四羽『夜蟻』邑書林

お世話になったけれど北へ飛ばされた悪い先輩と労組の会合で再会した日、赤野四羽『夜蟻邑書林を読む。〈春猫の去勢にゆく車中狭し/赤野四羽〉「車中狭し」という実感が春猫の去勢へゆく心境と重なる。〈夜という場所に何度も月がある/赤野四羽〉時間の経過ではなく「夜という場所」という空間として夜を捉えた。その空間を現実に繋ぎとめる月。〈やわらかに大気を結び雁渡る/赤野四羽〉鳥の飛翔を「大気を結び」という景の大きさが拡げる。〈ゆっくりと心臓のなる蒲団かな/赤野四羽〉「なる」は稔る、蒲団の果実としての心臓。〈むらさきが茶色にみえる秋の暮/赤野四羽〉光の具合だろうけれど、いずれもくすんだ色合いが晩秋。〈秋高しきれいな顔を放り投げ/赤野四羽〉アンパンマンの新しい顔。〈永き日に肩甲骨のみぎひだり/赤野四羽〉体が春へ開く、翼のごとく。〈郵便配達人宛先はもう枯野/赤野四羽〉「もう枯野」という鮮やかな厭世、〈春だから心の闇のなかも春/赤野四羽〉当たり前だけれど敢えて言う効果、〈とおくからひとをみているおおかみよ/赤野四羽〉仮名に開かれたことから「とおく」は距離というより心や時間の遠さ。

告発や反社会的牡蠣フライ 赤野四羽