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以太以外

病名は人間性や夕野分 以太

奥名春江『春暁』文學の森

腹痛の続く夜、奥名春江『春暁』文學の森を読む。〈振り売りの空荷で帰る花菜風/奥名春江〉の振売は〈振売の雁あはれなり恵美須講/芭蕉〉で見られるような行商の形態、花菜風に心の軽やかさや春の穏やかさがある。〈さへづりの中なる始発電車かな/奥名春江〉始発電車に生命の端緒を委ねたかのような。〈月光のおもしおもしと花芒/奥名春江〉「おもしおもし」は重し重しだけではなくおもしろしおもしろしでもある。〈啄木忌置いてころがるボールペン/奥名春江〉ままならない生活として。〈口中のしきりに渇く羽蟻の夜/奥名春江〉たぶん空気中の湿気が羽蟻の飛行に費されている。〈詩を成すにすこしの狂気雪ふれり/奥名春江〉気が「ふれ」るのであり、雪の連続という怪しさでもある。〈もの申すなり赤い羽根つけてより/奥名春江〉社会へ貢献した証を身につけることですぐ気の大きくなる小人という滑稽さ。

木の葉散り尽くし青空残りたる 奥名春江