以太以外

辷り台に脚を忘れた虫の闇/以太 ※リンク・引用自由

『寺山修司俳句全集』あんず堂

合同句集『麦の響』が届いた日、『寺山修司俳句全集』を読む。〈十五歳抱かれて花粉吹き散らす/寺山修司〉花粉は花の性器である雄蕊で作られる。十五歳は花束を渡され、かき抱かれた弾みでその花束が花粉を吹き散らす。しかし省略が、あたかも十五歳そのものが花の性器であるように読ませる。〈父を嗅ぐ書斎に犀を幻想し/寺山修司〉仏教における犀の角がちかいのかもしれない。犀の角のように知の国へ独り歩む父への追慕なのかもしれない。〈土曜日の王國われを刺す蜂いて/寺山修司〉王国とは閉ざされた埋没の世界である。土曜日から連想されるのは土に根差した埋没である。しかしその埋没を破るのが蜂の針で。〈電球に蛾を閉じこめし五月かな/寺山修司〉電球は青年の意識が埋没していく場所、五月の明るさに反比例するように。〈かくれんぼ三つかぞえて冬となる/寺山修司〉子供たちが三つまで数えそれから声のなくなる、誰もいない枯山の景が一瞬にして癌前に広がる。〈冬浪がつくりし岩の貌を踏む/寺山修司〉当然ながらこの貌は自己の険しい貌でもある。〈もしジャズが止めば凩ばかりの夜/寺山修司〉ジャズ停止後をかくれんぼの静寂と同じとするならジャズとかくれんぼの三つは類似した音楽ということになる、〈もし汽車が来ねば夏山ばかりの駅/寺山修司〉とともに。〈霧ふかし深夜のラジオ壁を洩る/寺山修司〉霧の浸透とラジオ音の浸透、世界への遠さとか。〈枯野へ向く塀に求人ビラはらる/寺山修司〉枯野という無人地帯へ向けて刷られた求人ビラという面白さ。〈春の暁紙屑に風ひそむかな/寺山修司〉いまにも飛び出しそうな紙屑の春めく皺とカサカサと鳴る音。

ふらんすの海の詩集へ咳こぼす 寺山修司