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以太以外

病名は人間性や夕野分 以太

斉藤志歩『水と茶』左右社

日常の道具にかすかに開かれた異世界へ。〈再会や着ぶくれの背を打てば音/斉藤志歩〉再会を喜ぶ快音が出た。〈ラガーの声ところどころは聞き取れて/斉藤志歩〉アルプススタンドからか受像機からか。ラグビーは全体を眺めるもの。〈文法書終はりに近く冬の星/斉藤志歩〉その言語というものがなんとなく分かり始めたのに仮定法に戸惑うころ、寒空を見上げる。〈春休み郵便受の裏に人/斉藤志歩〉これは郵便配達員側の視点ですね。手わたそうか、入れようかどうしようかというところ。のんびりした景がある。〈皿よりもピザ大きなる花見かな/斉藤志歩〉予測が外れた笑い声が聴こえそう。〈バス停にバスの沿いゆく暮春かな/斉藤志歩〉ちゃんと春が来た。〈雹やんで雹の話の多き街/斉藤志歩〉その人がいなくなるとその人の話がはじまるかのように。〈残業や硝子をつつく金魚の口/斉藤志歩〉餌か空気を欲しがるように金魚は硝子をつつく。残業中の人もまた。〈歯科医院に歯の置物や秋日和/斉藤志歩〉あたりまえだけどそんなあたりまえをちゃんと言うことも大事だ。〈風邪を引きさうな顔して帰りけり/斉藤志歩〉意外とそれは微笑みだったりする。

目がふたつマスクの上にありにけり 斉藤志歩

水と茶

水と茶

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