以太以外

蒼褪めた巨漢は笑う水澄んで 以太

銀杏文芸賞短歌の部入賞作

「銀杏」第二十号、令和二年度海音寺潮五郎記念文芸誌に掲載されている銀杏文芸賞短歌部門入賞作を読む。最優秀賞「その日待つ」より〈このまんま落ちてゆくならこわくない屍のポーズのレッスン中に/﨑山房子〉血管瘤の手術へ向けた連作、「屍のポーズ」が面白い。優秀賞「父の口髭」より〈つつましき夕餉に向けば甦る私語を禁じし父の口髭/松永由美子〉薩摩隼人である父の威厳の象徴としての口髭だったのか。優秀賞「八月」より〈戦熄みあの八月の青い空兵器図焼きしことを忘れず/本多豊明〉戦中の記憶を留める連作。以下は佳作、「空はまだ青」はもちろん省略。「群青と雲」より〈七夕に雲に隠れた天の川二人っきりで逢えただろうか/坂本妃香〉の逆転が良い。隠されているけれど自身の恋を感じる連作。「そらまめ」より〈口空けて眠れる夫の虚のなか歯は一本も無きぞ春宵/岸和子〉は驚く、生者とも亡者ともつかぬ。春から夏にかけての連作。「今日の半分」より〈タイムカード通してレジに立つ今日の半分がもう過ぎているころ/吉川七菜子〉徒労感が伝わる。スーパーマーケットなどのレジ係の連作。海音寺賞「無題」より〈生涯の悔の一つに連続の砲撃命ぜしことをもちて老ゆ/針持健一郎〉戦中の罪の記憶。なんのための砲撃だったのか。