以太以外

蒼褪めた巨漢は笑う水澄んで 以太

安里琉太『式日』左右社

落花生を食べた日、安里琉太『式日』左右社を読む。〈ひとり寝てしばらく海のきりぎりす/安里琉太〉佇まい俳句とも言うべきか。実景としてありうるだけに「きりぎりす」の動詞化をほのめかされたよつうな気にもなる。〈葛咲くや淋しきものに馬の脚/安里琉太〉葛は国栖であり、吉野や信濃など山の力を感じる。馬の脚が淋しいとは胴より上と比較して、であるしマルクス主義批評としての下部構造をも連想させる。単に中山競馬場の景かもしれないけれど。〈もの掛くる釘あまたあり薬喰/安里琉太〉狩猟人の整頓された清澄さ。〈風鈴やたくさんの手と喉仏/安里琉太〉風鈴市の景でもひとつの風鈴にまつわるたくさんの人の残像でも構わない、汗に濡れた喉仏が目立つ季節だ。その残像は〈並べたる瓶に南風の鳴り通し/安里琉太〉と同じで背景は霞んでいる。〈遅れくることの涼しく指栞/安里琉太〉一切の読書関係の語をいれずに「指栞」としたのが読み手を信頼していて、佳い。待ち人のやや気取った心境が鮮やかに縁取られる。〈郵政や鳩あをあをとして冬は/安里琉太〉郵政は結束のことだろう。冬はひとつの繁忙期として鳩は太る。〈避暑の宿耳かき売つてゐたりけり/安里琉太〉昭和からの宿なら竹製の耳かきで、触ればひんやりとするはず。〈竹筒やぽろぽろ出づる春の蟻/安里琉太〉未熟な、意識としては透明に近い春の蟻が竹筒から飯粒のように落ちて出るのは楽天家の景に他ならない。

竹秋の貝が泳いで洗ひ桶 安里琉太