以太以外

蒼褪めた巨漢は笑う水澄んで 以太

杉田桂『摩天楼』梅里書房

全国的に緊急事態宣言な春、杉田桂『摩天楼』梅里書房を読む。〈水中花腐蝕がすすむ摩天楼/杉田桂〉水中花も摩天楼も垂直の詩である。〈六月の空は腐りて鳥こぼす/杉田桂〉空と鳥の因果が梅雨により変じた。〈向日葵を凶器にしたる少女かな/杉田桂〉鈍器ではなく、すでに向日葵で人を傷つけたのだ、少女は。〈櫨紅葉はや鰓呼吸をしていたり/杉田桂〉海嘯のような紅葉の鮮やかさに肺呼吸では息苦しさを感じるという詩情は〈紅葉谷石が呼吸をはじめたり/杉田桂〉からも分かる。ちなみにハゼもハヤも魚の名。〈鉄壁をなすかげろうの切口よ/杉田桂〉かげろうは陽炎か蜉蝣か。いずれにせよ、気体の切口も細きものの切口も鉄壁とまで言い切られると愉快だ。〈さるすべり嘘の歯車噛み合いて/杉田桂〉すべらずに噛み合うのは嘘の歯ではなく嘘の歯車と。百日紅の色が真っ赤な嘘に見えてくる。

無神論者口を濡らして柿を食う 杉田桂