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以太以外

病名は人間性や夕野分 以太

千葉皓史『家族』ふらんす堂

淡々と日々。〈とんとんと事の運べる息白し/千葉皓史〉上手くいっているのはいいことだけれど、気忙しくなる。〈ま近くに駅あるらしき櫻かな/千葉皓史〉人の気配がある、街の動く気配がある。春は人が外に出て、動く。〈薔薇園のみじかき道を行きにけり/千葉皓史〉庭園の道は短い。〈丸められたるセーターを預かりぬ/千葉皓史〉雑な人なのだろう。〈熊皮は折り猪皮は巻きにけり/千葉皓史〉獣皮の保存方法。〈すべらせて配る白紙や夜の秋/千葉皓史〉夜学のプリント配布であろう。〈船が押す岸の動かぬ冬隣/千葉皓史〉そりゃあ動かないけれど、動くと思って動かないのが冬隣の気分。〈秋風をのせてふくらむ水面かな/千葉皓史〉波の一表現として。〈夕暮れは道ひろきとき桐の花/千葉皓史〉影が長くなり道をひろく感じるのだろう。〈甲板に仰ぎ見るべし夏の山/千葉皓史〉望郷の視線である。〈蜻蛉の行き交ふ街に商へる/千葉皓史〉露店だろう。青空の下で売り文句を述べる。これは〈店番の独り働きいわし雲/千葉皓史〉とも通じる。〈声ちぢむ水鉄砲をしてゐるよ/千葉皓史〉うわああと逃げている。撃たれた水が冷たくて身を縮め、声も縮む。〈引きかえす他なき空の澄みにけり/千葉皓史〉負けを認めることの清々しさ。〈金星の生まれたてなるキャベツ畑/千葉皓史〉金星の大きさとキャベツの小ささの対照が愉快。〈警官の隠れどころの青芒/千葉皓史〉いまどき芒原で張り込みである。交通違反の監視か。