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以太以外

病名は人間性や夕野分 以太

安田中彦『定本 人類』

読んだのは2023年10月発行の、定本の方。〈新聞を踏んづけてゆく孕み猫/安田中彦〉世情を越えてゆく孕み猫であり命を産むものの強さ。〈雛段の底の臣民略さるる/安田中彦〉下の方の人ほど多くの段を買えないので臣民を多く略している皮肉。〈/安田中彦〉〈顕れて聖痕となる黒揚羽/安田中彦〉存在そのものが聖遺物という尊さ。〈蜥蜴まで都市計画の届かざる/安田中彦〉おもしろい。都市計画の線引きが蜥蜴のからだへ届かないという無法図さ。〈白昼といふ暗さありソーダ水/安田中彦〉ソーダ水の明るさに、より暗くなる部屋とか。〈八月やうつ伏せの子を仰向けに/安田中彦〉不気味な句。寝ている子が原爆による死体か否かを確認するかのように。〈人体に鍵挿しこめば黒ぶだう/安田中彦〉ぶづぶづと鍵が人体へ沈んでいくような。ちょっと癌感ある。〈ろぼっとに訛ありけり冬籠/安田中彦〉雪山の老博士を思う。ろぼっとの訛はろぼっとの世界における標準語だった。〈新人はみな黒スーツやがて死ぬ/安田中彦〉いきなり過ぎて笑う。喪服の色を思うのだろう。そりゃそうだけど、と言いたくなる。

これは吾の前頭葉かブロッコリ 安田中彦