以太以外

辷り台に脚を忘れた虫の闇 以太

坊城俊樹『壱』朔出版

肩がこる日、『壱』を読む。〈焼夷弾降りしあたりを都鳥/坊城俊樹〉隅田川あたりの業平の物語と戦中とが交錯する。〈出征し負傷し此処に暦売る/坊城俊樹〉靖國神社のカレンダーだろう。糊口をしのぐために暦売りをしなければならない。〈零戦といふ夏空のひとかけら/坊城俊樹〉遊就館ゼロ戦、かつての夏空を翼に留め今は地にある。夏ゆえに特攻隊も意識しているのだろう。〈零戦といふ炎帝のやうなもの/坊城俊樹〉もまた。〈寒風が樹齢の音を立ててゐる/坊城俊樹〉十年や二十年ではない、百年や千年の樹齢の音を思う。〈衛士もまた黒を極めし花衣/坊城俊樹〉皇宮警察官も花見をする。〈角海老の裏よりぬつとサングラス/坊城俊樹〉ボーイか、それとも常連客か。〈エンゼルトランペット破れ小鳥来る/坊城俊樹〉九段会館のエンゼルトランペットだろう。音の出ないトランペットと鳥の声、ふたつの音の共鳴を思う。〈露の世の襁褓干されて舟だまり/坊城俊樹〉品川あたりの景だろう。露という古い歌のことばと俗も俗な襁褓の白さが和する。

終点は銀河それとも春の駅 坊城俊樹