以太以外

蒼褪めた巨漢は笑う水澄んで 以太

「桜騒」『澁谷道俳句集成』沖積舎

特別定額給付金の申請書を投函した日、「桜騒」部分を読む。〈ぬぎすてて春着へ移す夜の重心/澁谷道〉身体の重みをふと無くしたかのように脱ぐ。これは脱ぎ方についての句であり裸身が青白い。〈鮭とボサノバ喉いっぱいの夕映え/澁谷道〉鮭という魚類のもつ性質の暗さとボサノバの音の冥さとが夕映えに響き合う。もちろん暗愁saudadeがある。〈冷房の紅茶一碗はりつめて/澁谷道〉「はりつめて」は紅茶を飲もうとする人の緊張の投影である。〈のうぜんへ血の繋がらぬ土運び/澁谷道〉「血の繋がらぬ」は土葬を思わせる。そして地の赤と天の赤との対比も思わせる。〈木槿萎え神さまはピンセット状/澁谷道〉新しい神話と言える。萎えとピンの対照性。〈潮風のざくろよ信管抜かれて/澁谷道〉海際の柘榴を爆発物に喩えるけれど信管が抜かれたので爆発はしない。潜在的な爆発だけを秘めて潮風に干からびてゆく。

メロンと毬百個すりかえ夢心地 澁谷道