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以太以外

病名は人間性や夕野分 以太

「夢谷」『柿本多映俳句集成』深夜叢書社

福みつで餃子を待ちながら『柿本多映俳句集成』の「夢谷」を読む。〈薔薇剪りしわが前をゆく救急車/柿本多映〉薔薇の色と救急車の回転灯とその傍らにある死の予感、〈いつせいに椿の落ちる椿山/柿本多映〉虚実はわきへおいて。椿の落ちる前を椿山と呼ぶのは分かるとして、しかし「いつせいに」椿の落ちたあとも椿山と呼べるだろうか、落椿を敷き詰めた山も椿山と呼べるだろうか、という点で読み手が試されている。〈秋深む駱駝はまぶたばかりなり/柿本多映〉は一瞬だけ駱駝の眼球に成り代わっている。〈ひるがほに一瞬昏き天地かな/柿本多映〉視点の一瞬の集中による昏さ。

瞑れば花野は蝶の骸かな 柿本多映