以太以外

蒼褪めた巨漢は笑う水澄んで 以太

山田耕司『不純』左右社

浜松市立図書館臨時休業の最終日、山田耕司『不純』左右社を読む。〈ペンギンは受話器にあらず半夏生/山田耕司〉黒と白の詩なので、受話器は黒電話となる。もちろんペンギンは受話器でもいい。〈いきんでも羽根は出ぬなり潮干狩/山田耕司〉海と空とをつなぐ大きな景だと思う。もちろんいきんで背中から羽根が出てもいい。〈交番に鯛焼の来て帰らざる/山田耕司〉買い物袋の鯛焼に焦点をあてて泳げたい焼きくんの世界を再現した。〈狼のまだおりて来ぬすべりだい/山田耕司〉狼は絶滅しているからおりて来る来ないの前にもういないのかもしれないけれど「まだおりて来ぬ」としたことですべりだいの上には狼が「いる」。〈うぐひすやボタンの数にあなの数/山田耕司〉ボタンを押すと凹むのは同じ数だけのあなにボタンがはめられているから。鳥、多くの鳥には暗い樹のむこうに装置が潜在している、そのような共感として読んだ。〈枝豆や脱ぐにバンザイさせあうて/山田耕司〉つるんとしているという驚きが脱衣にはある。〈このレヂと決め長ネギを立てなほす/山田耕司〉レヂは滑走路だと思う。〈はらわたを暗さと思ふ柚子湯かな/山田耕司〉柚子湯の明るさに裏打ちされた入浴者の内臓の暗さ。山田耕司VS山田耕司は赤二点、白六点。〈焚き火より手が出てをりぬ火に戻す/山田耕司〉戻すのは復活しないように。実景だろう。〈日に脚のありて伸ぶるを金盥/山田耕司〉日脚の脚を強調させる。金盥は日の具体化であり日脚と日を同等表している。〈合掌のひとりは蝶を籠めしこと/山田耕司〉合掌を開くとたちまち蝶は消える。〈ふるさとや玉にラムネの底とほく/山田耕司〉玉は底に届きそうで決して届かない、〈故郷や臍の緒に泣く年の暮/松尾芭蕉〉と同じく製造過程の景を思わせるけれど掲句は景を描くことに専らしており芭蕉から三百年たったのだと思わせる。

初日射すので立ち方は毛沢東 山田耕司