以太以外

蒼褪めた巨漢は笑う水澄んで 以太

「縷紅集」『澁谷道俳句集成』沖積舎

第三十一回伊藤園お~いお茶新俳句大賞の二次審査通過のお知らせが届いた日、「縷紅集」部分を読む。〈鏡拭けば廃村という春景色/澁谷道〉鏡の曇りを拭うと廃村の春の景色が映っていた。人が絶え自然の繁茂する、やわらかい景なのだろう。〈廃屋曾て雛の具をちりばめし闇/澁谷道〉廃村につづき廃屋、その隅の闇はそんじゃそこらの闇はではなく娘らが住み雛祭りをした闇なのだという。賑やかさの名残り。〈白地図の折り目におとなしき蛇/澁谷道〉地図が蛇の頭脳のプログラムであれば、白地図であるがゆえに蛇はまだおとなしいということか。「折り目」という把握のすごさ。〈抱けば硬き小犬のあたま野分くる/澁谷道〉やわらかそうな小犬の頭蓋骨が硬いという驚き、死の骨格に触れたような野分。〈猫を追うわが足あとは桃の花/澁谷道〉浮かれ猫ほどに追う吾も浮かれている。〈ほのぐらき電流曳けり大揚羽/澁谷道〉電流は大揚羽の生命の痕跡である。〈肉野菜はげしく炒め稲曇り/澁谷道〉稲曇りは未詳だが、稲刈のときの曇り空だろう。秋夕の中華料理屋の灯りとかを思う。食の氾濫。〈闇汁の闇のつづきに渡し舟/澁谷道〉「闇汁の闇のつづき」という手放せない機知がある。〈藻の青でベッドを覆い旅にたつ/澁谷道〉そのベッドはしばらくは寝ないベッドだ。

鳥撃つ日レモンの天国的黄色 澁谷道