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以太以外

病名は人間性や夕野分 以太

小林貴子『黄金分割』朔出版

第二十回三汀賞で三輪晶子館長の特選に拙句〈薔薇を手に台詞ひとつもなくて幕/以太〉が採られているのを知った日、小林貴子『黄金分割』を読む。〈ダンスシューズくるりと丸め二月尽/小林貴子〉丸めたシューズのコンパクトさが二月。〈大阪の夜のこてこての氷菓かな/小林貴子〉大阪の繁華街の賑わいのような濃厚さ、フルーツとか。〈どこまでも歩ける靴やチューリップ/小林貴子〉素直な元気さ。〈刳りぬいて南瓜スープを盛る南瓜/小林貴子〉同語の繰り返しだけれど同義の繰り返しとはならないおもしろさがあり〈磯巾着磯巾着と闘へり/小林貴子〉とは少し違う味をもつ。〈一夜にて子供生みたり雪だるま/小林貴子〉喜びのあまり雪だるまは築かれた、とか。〈炎日や売られて黒き豚の面/小林貴子〉面はつらとルビ、まじまじともはや食品、いや神に近い豚の面を見る。〈若葉冷ギターの螺鈿光りかな/小林貴子〉若葉冷や「螺鈿光り」に一九七〇年以前を生き抜いた若者の時代を思わせる。〈霜月や花びらの如ハムを削ぎ/小林貴子〉霜月と豚脂の色彩の調和がある。

ぞんざいな折目ひらけば初蝶に 小林貴子