以太以外

辷り台に脚を忘れた虫の闇/以太 ※リンク・引用自由

越智友亮『ふつうの未来』左右社

好きになってはいけない人を好きになったかもと思った日、『ふつうの未来』を読む。〈雲雀野や空は球体なのだろう/越智友亮〉球から垂直に線を引いたとき、見下ろした空が球体だといつから気づき、いつから忘れるのか。〈八月の蛇口をひねる水がでる/越智友亮〉八月には過去そこまでも水が欲しい人たちがいた。広島で、長崎で。〈波音に波ずれてゆく小春かな/越智友亮〉微細を発見する視力と聴力。〈アイマスク代わりに本や風涼し/越智友亮〉風涼しは肌で感じているのだと中七までが示している。〈城跡に市役所近し孔雀草/越智友亮〉たいていの市で共感の渦が巻かれる。〈水槽は部屋を灯して夏の風邪/越智友亮〉部屋の中心ではない外れでどうしようもない闇を水槽の電灯が照らすのは、風邪のどうにもならない熱っぽい体のようで。〈天高し鞄に辞書のかたくある/越智友亮〉それは信念のようなものの固さ。〈信号は夜を眠れず虫しぐれ/越智友亮〉虫時雨が信号のように機械的に聴こえる夜であることよ。最後に〈アラビアに雪降らぬゆえただ一語ثلجと呼ばれる雪も氷も/千種創一〉を即座に連想した句を。

恋も愛もloveで表すソーダ水 越智友亮