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以太以外

病名は人間性や夕野分 以太

堀本裕樹『一粟』駿河台出版社

誌上句会で〈朝霞棺と思う部屋にいて/以太〉が採られていた日、『一粟』を読む。〈囀りを終へたる舌の余熱かな/堀本裕樹〉鳥の舌はまだ震えつつ熱を帯びている。〈落花生剥くとき小さき闇に触る/堀本裕樹〉旨味のある闇を隠している落花生の殻。〈ゆかりなき扉の数や秋の暮/堀本裕樹〉街に自分のために開かない扉のなんと多いことか。〈亡き人と月光を踏む遊びかな/堀本裕樹〉月光の使い方の巧みさ。亡き人とできるほぼ唯一の遊びとしての月光踏み。太陽ではできない。〈海の日のガススタンドの匂ひかな/堀本裕樹〉退屈なガソリンガールがいそう、ぬけるような青空とどこまでも広がる太平洋の海岸都市。ガソリンの突くようなにおい。〈峰雲やにんげんの罪量れざる/堀本裕樹〉もしあの入道雲が人間の罪なら、いつ我々は赦されるだろうか。〈行く夏のいるかに触るるための列/堀本裕樹〉いるかの肌に触れればいつまでも夏を思い出せるかもしれないと人々は列をなす。〈玉葱の香の指に繰る『自省録』/堀本裕樹〉生活の中にあるストア哲学

朝虹や尼僧の耳のピアス穴 堀本裕樹