Mastodon

以太以外

病名は人間性や夕野分 以太

千原こはぎ『ちるとしふと』書肆侃侃房

宅急便が呼び鈴を鳴らさない夜、千原こはぎ『ちるとしふと』書肆侃侃房を読む。〈わたししか音を立てない深夜二時ことり、とペンを丁寧に置く/千原こはぎ〉深夜の無音さを「ことり」と音で表現している。〈なにひとつ創生しない営みに「あい」なんて音ひびかせないで/千原こはぎ〉アイは愛の音読みだった。〈溢れだすものを残らず書き留めて雨の止まないノートをつくる/千原こはぎ〉「雨の止まない」の止めどなさ。〈牛乳がしずかに膜を張るようにあなたを少し拒んでいたい/千原こはぎ〉ほとんど抵抗することのない白い膜、「拒んでいたい」とは拒みたくない。〈罫線も方眼もないあなたとのこれからを自由帳なんて呼ぶ/千原こはぎ〉恋愛の非ユークリッド幾何学。〈いろいろを省略すればほぼ妻と呼ばれてもいい四月の朝に/千原こはぎ〉「いろいろ」ゆえに妻となれないでいる。

こなざとう舞う朝は来て追熟のりんごの頬で駅まで歩く 千原こはぎ