以太以外

蒼褪めた巨漢は笑う水澄んで 以太

穂村弘『シンジケート』講談社

〈別件の顔をしてくる会社員/以太〉が麦誌上句会テーマ「別」特選になっているのを見た日、『シンジケート』を読む。〈郵便配達夫の髪整えるくし使いドアのレンズにふくらむ四月/穂村弘〉郵便配達夫にメイルマンとルビ、そういう時代もあったのだろうか。今はみんなヘルメットを被っているし、そんな人見たことない。〈「とりかえしのつかないことがしたいね」と毛糸を玉に巻きつつ笑う/穂村弘〉失うために努める。〈夕闇の受話器受けふいに歯のごとし人差し指をしずかにおけば/穂村弘〉受話器受けにクレイドルとルビ、押せば引っ込む歯として。〈マジシャンが去った後には点々と宙に浮かんでいる女たち/穂村弘〉女たちの顔を想像するとおもしろい。ソラリスのような表情だろうか。〈はしゃいでもかまわないけどまたがった木馬の顔をみてはいけない/穂村弘〉視界に入らない世界は存在しないはずだから。自分の乗っている車の前面は見ないものだから。〈彗星をつかんだからさマネキンが左手首を失くした理由は/穂村弘〉何気ないものの気づきにくい不思議を明かす。〈自転車の車輪にまわる黄のテニスボール 初恋以前の夏よ/穂村弘〉そんな奴いた。憧れていた。〈象に飲ませる林檎の匂いのバリウムが桶いっぱいにゆれる月の夜/穂村弘〉いまはインターネットのグーグル検索で何でも調べられちゃうからあきらかな嘘は書けず現実の裏側しか書けないけれど、グーグル検索が未発達な時代はなんでも書けた。詩になった。グーグル検索はいくつかの詩を殺した。〈パレットの穴から出てる親指に触りたいのと風の岸辺で/穂村弘〉誰の指か知らないけど触りたくなる。やわらかいのか。〈終バスにふたりは眠る紫の〈降りますランプ〉に取り囲まれて/穂村弘〉一時期すっごい影響受けた歌。でも記憶では朝焼けのイメージだった。〈アルキメデスのように駆けだす淫売は肩にシャボンの泡のせたまま/穂村弘雄琴で火事だ。〈査定0の車に乗って海へゆく誘拐犯と少女のように/穂村弘〉なんでもないものでいられず自分にレッテルを貼ったり値段をつけたりする。