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以太以外

国は夜ずっと流れているプール 以太

『鈴木六林男句集』芸林書房

鈴木六林男賞があるらしいので鈴木六林男の句を読む。〈蛇を知らぬ天才とゐて風の中/鈴木六林男〉その齢まで蛇を知らずにいれたのだから天才なのだ。〈眼玉濡らさず泳ぐなり/鈴木六林男〉泪で濡れている眼玉を「濡らさず」泳ぐ。それほど慎重に泳ぐ。〈断水の夜となりオートバイ騒ぐ/鈴木六林男〉断水して家にいられなくなった若者たちがオートバイで騒ぐ。ささやかな因果がよい。オートバイの句は〈やや傾き歳晩の地のオートバイ/鈴木六林男〉も。〈枕頭に波と紺足袋漁夫眠る/鈴木六林男〉枕頭に波があるというのがさびれた漁村めく。紺足袋はいのりだ。〈いつまで在る機械の中のかがやく椅子/鈴木六林男〉椅子は座、誰かの存在の名残りを感じる。〈都會の晝一個のボール転りゆき/鈴木六林男〉ボールだけの描写で人の気配を感じさせないのが鮮やか。〈わが死後の乗換駅の潦/鈴木六林男〉その潦はどんな空を映すのか。〈悪の如し純水・工業用水・飲料水/鈴木六林男〉水の用途、何が悪なのだろう。悪水路を思う。〈寒鯉や乳房の胸に手を入れて/鈴木六林男〉寒鯉は冬の乳房の感触だろう。〈たてかけて自転車光る夜寒の木/鈴木六林男〉木へ自転車を立てかけた、倒して傾きが変わったので光った。夜寒の一瞬だ。〈聲がして自動車墓場の春の月/鈴木六林男〉「自動車墓場」がいい、そこからの声は近くに住む少年の声だろうが自動車の霊魂からの声かもとも思う。〈「存在」を講じて疲れ青芒/鈴木六林男〉大学の講座で存在論を講じたのだろう。その後、茫漠たる青芒だ。〈大いなる異議ありて行く恵方道/鈴木六林男〉その方角へ、その方角を支える制度への異議申し立て。〈鳥総松レーニン全集立ちつづけ/鈴木六林男〉レーニンは成功した革命家の象徴。鳥総松が門松を取り払ったあとに挿すものだということがこの句を立たせている。〈遠くまで青信号の開戰日/鈴木六林男〉どこまでも澄み切った青空のような青信号の道、誰も止められなかった。〈インド人の大きなあくびヒロシマ忌/鈴木六林男〉アメリカ人では政治的でダメだった、インド人だからおもしろい。〈サングラスなかに國家をひそめたる/鈴木六林男〉国家の、「ビッグブラザー」の視線が隠されたサングラスだ。

かかる日の金融に虹かかりけり 鈴木六林男