以太以外

蒼褪めた巨漢は笑う水澄んで 以太

麦酒

「麦酒は売りません」とその人は言う。愛知県新城市鳳来寺の表参道脇に旧門谷小学校という廃校がある。その廃校でカフェ爾今主催の「スーク緑の十日間」というイベントが開催されている。スークではパンやフライパンが売られ、音楽が奏でられ、コーヒーが淹れられ、ヌメ革が彫られ、肉が焼かれ、子供が表参道沿いの音為川まで下りて川遊びをする。私は五月四日にスークを訪れる。そして、地鶏を扱う焼き鳥屋で葱間を三本注文して焼き上がるのを待つ。すると子連れの男が来て、焼き鳥屋に「麦酒を下さい」とテント奥の麦酒サーバーを指して言う。焼き鳥屋は「申し訳ありません。この麦酒は売っていないんですよ」と応える。子連れの男は「でも、それ普通の麦酒じゃないんですよね」と言う。子連れ男は事情通らしい。焼き鳥屋は「はい。掛川の地麦酒です」と言う。子連れの男の喉はおおっと唸る。そして「いま飲みたいんですれけど、駄目ですか」と言う。焼き鳥屋は「今回このイベントに新規出店している方がお酒を扱ってらっしゃるんですね。なので麦酒は売りません」と言う。焼き鳥屋のこの言葉で、男は子を連れて引き下がる。葱間は壺のタレにたっぷりと漬けられる。炭から濛々と煙が上がる。

胸奥にビールを隠す漢かな 以太

スーク緑の十日間 旧門谷小学校校庭