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以太以外

病名は人間性や夕野分 以太

上田信治『リボン』邑書林

浜松市民文芸第65集の詩部門で市民文芸賞をもらえると通知が来た日、上田信治リボン邑書林を読む。〈夜の海フォークの梨を口へかな/上田信治〉「夜の海」と梨の水気の距離感が夜の物語を織りなす。「口へかも」という口語的表現も良い。〈吾亦紅ずいぶんとほくまでゆれる/上田信治〉吾亦紅と「ゆれる」はありきたりだけれど「とほく」と距離を示した意外さ、「とほく」は時間あるいは心の隔たり。〈囀や駐車場いっぱいの石/上田信治〉駐車場の石は、声と存在の密度だ。〈水道の鳴るほど柿の照る日かな/上田信治〉形容の意外さ、しかし蛇口の乾いた鳴りは秋めく。〈花きやべつ配電盤が家のそと/上田信治〉「花きやべつ配電盤」の字面だけで佳い。〈昼月の雲にまみれて丘の町/上田信治〉一日中雨の降っていた町の、見上げたら晴れて月が出ていたような、ぼんやりとした時間が流れる文面、画数の控えめな漢字群。〈花の雨カタヤキソバの餡に烏賊/上田信治〉絶対に人のいる句だけれど人の姿が見えない、たぶん「烏賊」が注意を逸らさせて、人を消している。認知の隙間を射抜くような技で。

木犀や水をもらつて白い犬 上田信治