以太以外

蒼褪めた巨漢は笑う水澄んで 以太

『中拓夫句集』ふらんす堂

社会的距離を保ちながら人間ドックを受診した日、『中拓夫句集』ふらんす堂を読む。〈耳かすみをり流域は林檎園/中拓夫〉「流域は林檎園」というザックリとした景の描き方が俳句ならでは、〈赤とんぼ山の斜面の明るき墓地/中拓夫〉もザックリ。〈霧の駅冷凍の魚引きずられ/中拓夫〉駅で冷凍の魚が引きずられている景は実景であっても心象風景であっても訴求力のある景だ。文明のまぎれものとして魚体。〈塩鮭の尾が砂に立つ松林/中拓夫〉や〈漁船出す道あり海水浴の中/中拓夫〉とともに鑑賞したい。〈薄氷の田面や喉をざらざら剃る/中拓夫〉表面や表皮への際どい想像力。〈田を植ゑぬ宵の三日月を神として/中拓夫〉荒っぽいというか措辞が大胆。〈洗ひ飯蜂の機嫌を悪くせり/中拓夫〉洗ひ飯の感覚が蜂の機嫌を悪くしたときの危険の感覚と合う。〈鳴らずなり麦笛の管甘きかな/中拓夫〉甘い理由を植物学ではなく思い出として語る。〈雲雀野や捨て自転車の輪が回る/中拓夫〉「輪が回る」とは捨てられることで自転車の新しい人生がはじまるかのよう。

枇杷青しひとときかつと机照る 中拓夫