以太以外

蒼褪めた巨漢は笑う水澄んで 以太

「夜の客人」『田中裕明全句集』ふらんす堂

保育園からの強気の登園自粛要請に驚く日、「夜の客人」部分を読む。〈家々の切れてつづけり浮寝鳥/田中裕明〉街のデフォルメされた景色と距離を違えたところにいる浮寝鳥について。〈一身に心がひとつ烏瓜/田中裕明〉心は烏瓜の明るさにも似て脈うつ。〈役者老いて役似合ひけり菫草/田中裕明〉菫草と可憐におさめたので老役者による童女の演技も締まる。〈秋風や老いし馬の目人を見ず/田中裕明〉老いの白濁によりなかば盲い、なかば澄んだ目は来世まで見透すだろう。〈さびしいぞ八十八夜の踏切は/田中裕明〉春でもなく夏でもないような、あらゆるものの境を渡る踏切か。〈空へゆく階段のなし稲の花/田中裕明〉稲田の広さが空へゆく階段なんてものを想わせたのだろう。「なし」はあらまほしだ。悲しい希望のありか。〈髪濡れて廊下をあるく良夜かな/田中裕明〉月光で艷やかに濡れる髪。〈龍あるく青水無月の原濡れて/田中裕明〉「龍あるく」は句柄の大きさと自由と。〈東京は墓多き町武具飾る/田中裕明〉死と成長の喜びがすぐ隣り合わせにあらざるをえない大都会ということ。

さみだれのあつまつてゐる湖心かな 田中裕明