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以太以外

病名は人間性や夕野分 以太

小川楓子『ことり』港の人

接していないか接しているかのすれすれとして『ことり』を読む。〈段ボール引いてあそんで犬ふぐり/小川楓子〉子供の遊びだろう、犬ふぐりで段ボールが引かれた地面や濡れた段ボールの端へ視線を集める。〈夏来る箸でわけあふメンチカツ/小川楓子〉夏が孵化する卵のようなあつあつメンチカツだ。〈泣きがほのあたまの重さ天の川/小川楓子〉恒星めいた頭の大きい子供を思う。泣いた涙は星屑、なんて。〈月面を見たいセーター脱ぐときも/小川楓子〉セーターを脱ぐときは何も見えなくなる、そんなときでも見たいのはセーターの外ではなく、月面。今日はいい冬の月。〈胸のなかより雉を灯して来りけり/小川楓子〉その人の胸のなかで雉の目が灯る。〈雉子の眸のかうかうとして売られけり/加藤楸邨〉が根底にある。〈小鳥来る夜の番地のありにけり/小川楓子〉昼と夜とで番地は異なる、同じ場所でも違う情景となる。〈手袋が頬にさはれば古い木々/小川楓子〉手袋の頬触りと古い木々の木肌の手触りと。〈歯みがきはたいせつ春の鳥ばかり/小川楓子〉春の鳥のようにお利口な歯ばかりならよいけれど。〈秋思かがやくストローを噛みながら/小川楓子〉歯型でガタガタになったストローが秋思のかたちへよじれる。〈冬の水日記つけないわたしたち/小川楓子〉冬の水のように透明に、日々を何も残さない。あとは涸れるだけ。〈かほぎゆつと集めて吹きぬジャズは冬/小川楓子〉サッチモだ、トランペットだ。〈炒飯にすこし春菊なんとかなる/小川楓子〉苦味のような困難は先に食べて片付けてしまおう。〈毎日の冬はりんごの酢を二滴/小川楓子〉語順入換の俳句。外し方がいい。〈熱つぽく5について語るへんな毛布/小川楓子〉毛布にくるまり競馬予想をする人について。〈曇り日の噴水は手をかざされて/小川楓子〉光っているから火と間違えられた水について。〈ドアノブの磨かれてとほくに春の潮/小川楓子〉ドアノブの反射に春の潮が映るかもしれないと思わせる。洋室のなか、海の音を聴く。〈馬肥えるんだしレターパックの厚み/小川楓子〉ぱんぱんにまで入れられたレターパックプラスですね。〈配達のバーコードぴつ青葉して/小川楓子〉受入入力から5分以上立たないと配達完了してはいけない。〈バナナの斑きつと天牛が大きな夜が/小川楓子〉あのぶち模様はバナナにもカミキリムシにもある。夏の模様として。〈足首のけぶかい暖房車のふたり/小川楓子〉暖房車の走る季節に足首を見る意外さ。〈鯛焼や雨の端から晴れてゆく/小川楓子〉鯛焼の端から食べるように、晴れてゆく。何事もはじまるのは端からと気付かされる。

ことり

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