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以太以外

病名は人間性や夕野分 以太

堀田季何『人類の午後』邑書林

〈エレベーター昇る眞中に蝶浮ける/堀田季何〉重力とか地上の力から解放された存在としての蝶だ。〈紋白蝶重し病者の鼻梁には/堀田季何〉本当にその紋白蝶いますか? と病者へ訊ねてはならない。〈閉館日なれば圖書みな夏蝶に/堀田季何〉読む者が帰ってくる開館日まで飛んでいる。〈地球儀のどこも繼目や鶴歸る/堀田季何〉国境ではなく継目に着目する。今にもバラバラに解けてしまいそうな地球儀を撫でまわそう。〈こどもの日ガラスケースに竝ぶ肉/堀田季何〉ははは、こどもが屠られたみたいな文面だ。〈沼地より少女生えきて夏休/堀田季何〉なんか好き。夏休に急に姿を現す少女たちは沼から生えてきたのか。〈風鈴をきいたのかもうおわかれだ/堀田季何〉風鈴の音が合図だったから。〈バビロンの法の重さの星流る/堀田季何〉玄武岩の重さの流星だろう。〈地球儀の日本赤し多喜二の忌/堀田季何〉共産主義の色ではなく血の色として赤を見る。〈地圖に地圖足し大き地圖秋津島/堀田季何〉飯島晴子の吟行準備である。〈泳ぐなり水沒都市の靑空を/堀田季何〉まだ水没都市に住民が住んでいるとしてどんな気持ちでその青空を泳ぐのだろうか。鳥ではあるまい。

惑星の夏カスピ海ヨーグルト 堀田季何