以太以外

空の色尽きて一月一日に/以太

板倉ケンタ『一花一虫』ふらんす堂

〈臘梅を悪い薬のやうに嗅ぐ/板倉ケンタ〉顔をしかめたりして。〈はだれ野やあれはバブルの頃の文字/板倉ケンタ〉甘愁の句、雪舞う郊外、遠いラブホテルの景だろう。〈七人が水着に変はる昼の樹下/板倉ケンタ〉下に水着を着ていたのかな。〈咲かされてゐるパンジーの寒い丘/板倉ケンタ〉「咲かされてゐる」の人工感が丘を寒からしめている。〈気化するガソリン夏蝶がその匂ひ/板倉ケンタ〉俳句は新味をうみだすものとしたら、この句がその新味。〈武蔵野の昼の寒さよ檸檬の樹/板倉ケンタ〉漢字のたたずまいがようござんす。〈覚えなき電波を拾ふ石蕗の花/板倉ケンタ〉石蕗の茎がながいとアンテナっぽい。〈花葡萄悪食の山羊なれば売る/板倉ケンタ〉雑草除去用の山羊が野菜を食べるときもある。〈温室をでてみんなみの疲れかな/板倉ケンタ〉軽い、ぬめっとした倦怠感だろう。〈北風は日能研の崖に吹く/板倉ケンタ〉受験戦争の厳しさや過酷さなんてことを「崖」に落ちてゆく北風に思うのか。〈幽霊がピアノの部屋に充ちてゐる/板倉ケンタ〉鳴るはずの音がない、それが欠如を際立たせ、この世ならざるものを手招きする。

あやめにも弱き雨ふる郵便夫 板倉ケンタ