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以太以外

病名は人間性や夕野分 以太

小津夜景『花と夜盗』書肆侃侃房

華麗なイメージと技の連なり。〈空蝉に棲む在りし日の青年は/小津夜景〉思念は空蝉に棲むというより、ただ蝉の声だけがある世界にその青年の虚像がある。〈脱皮したのは虹の尾をふんだから/小津夜景〉蛇族の虹の尾を踏む。〈おはやうのやうなさよなら夏隣/小津夜景〉いつもする挨拶のように別れを告げる。別れたあとは昼のくにだから。〈馬肥えて一マス進むチェスの駒/小津夜景〉進むのはナイトでなくてもいい。一マス進むのはポーンやルークやキングだ。わかるのは、すでに戦場だということ。〈道すがら脚を描きたす冬の虹/小津夜景〉淡く書き足す。ふと思いついたその人は画家かもしれないし、ファッションデザイナーかもしれない。〈春深む胸にフォークをしまひけり/小津夜景〉食欲もしまってしまう。いつか、すぐに掘り出せるように。〈運慶と快慶が翔ぶ月と花/小津夜景〉W慶の音がいい。〈月に騙されて鯆は花漬けに/小津夜景〉鯆にいるかとルビ、月は罠だった。ホルマリン漬けのように花漬け、ある地方では美味として知られる。

ちはやぶるアンドロイドや秋の草 小津夜景

花と夜盗

花と夜盗

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