以太以外

蒼褪めた巨漢は笑う水澄んで 以太

佐佐木幸綱「群黎」『現代短歌全集』筑摩書房

〈海岸の跡地へ梅雨の星降れり/以太〉が麦誌上句会テーマ「海岸」の特選になっているのを確認した日、「群黎」を読む。〈何を聴く耳密林を繁らせてアフリカの地図わが裡にある/佐佐木幸綱〉アフリカの耳はいま砂漠、でも密林のほうがいい。〈ボーリング場の少女の腰細しふり返りざま恋の目をせよ/佐佐木幸綱〉ボーリング全盛の時代か。〈語らんは若き人麿北風に冴えてわが街ふいに天に尖れば/佐佐木幸綱〉北風にきたとルビ、「わが街」はわが心である。〈古歌に激しく切られてすがしストーヴの炎しずかにうねる夜更を/佐佐木幸綱〉古歌の鋭さが切ったのだ、切りつけたのだ。〈セーターの乳房の重み手に受けて揺れ揺られいるラッシュは情時(学生)/佐佐木幸綱〉現代でなければこんな歌も書けるのか。〈立ち泳ぎの吾を残して夕暮るる錆色の海藍の島山/佐佐木幸綱〉劇的な夕暮れの海に浸かる男一匹。〈じんじんとジンが沁みゆく内側はわが闇の沼夏の夜更けの/佐佐木幸綱〉「わが闇の沼」か、そういう心理状態なのか。