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以太以外

病名は人間性や夕野分 以太

中日歌壇中日俳壇2021年3月14日

島田修三選第一席〈ブラバンロングトーンが溶けてゆぬ 夕暮れ 校庭 三角牛乳/鈴木真砂美〉「ロングトーン」の音の長さと懐古の余韻の長さとが字あきで表現される。第二席〈野良猫がひょいと垣根を越えて来るひょいがほしいな猫と目が合う/森真佐子〉「ひょい」の身軽さは欲しい。第三席〈白衣着たわたくしがいる夢のなかとまらぬコロナ禍「出勤せねば」/郷幸子〉「出勤せねば」の強迫は時間に追われて来た人ならでは。〈ここまでか敬老会の高齢化七十以下の若手がいない/三上正〉「若手」という言葉の相対化。小島ゆかり選第一席〈カーブミラーの中の景色が揺れている今日は強風かがみのなかも/大鋸友紀〉二週続けて「映る」が第一席。歪んだ景色のなかも強風。第二席〈每日があの日あの日になりてゆくあの日あの日の受験、コロナ禍/杉山智栄〉どの日も同じようで違う手触りのある一日だ。〈両腕に大根抱えるこの俺に駅へのみちを訊く旅の人/河合正秀〉小林一茶の句の再現を期待され、句のように応えたのだろうか。〈新社長十一人の男性のずらりと並ぶ紙面見ており/大石知子〉日本のジェンダーの現実。栗田やすし選〈百千鳥島に小さな喫茶店/加納寿一〉たくさんの鳥の声に囲まれた客のいない喫茶店、いても居眠りの漁夫ひとりの喫茶店を思う。大きな景色と小さな事物の対比が佳い。〈林道の開通式や蕗の薹/渡辺一成〉これから人柄行き交う。長谷川久々子選〈信長の最期は悲劇春の雷/浅井清比古〉「麒麟はくる」かな。