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以太以外

病名は人間性や夕野分 以太

2020-02-01から1ヶ月間の記事一覧

小林貴子『黄金分割』朔出版

第二十回三汀賞で三輪晶子館長の特選に拙句〈薔薇を手に台詞ひとつもなくて幕/以太〉が採られているのを知った日、小林貴子『黄金分割』を読む。〈ダンスシューズくるりと丸め二月尽/小林貴子〉丸めたシューズのコンパクトさが二月。〈大阪の夜のこてこて…

山川藍『いらっしゃい』角川書店

八階にある谷島屋書店のカフェで山川藍『いらっしゃい』角川書店を読む。〈ローソンのドアが手動で開けながら佐藤優の猫のことなど/山川藍〉は〈ローソンのドアが手動で/開けながら〜〉か。どうでもいいけれど佐藤優と猫の写真を見たことがあっても佐藤優…

「夢谷」『柿本多映俳句集成』深夜叢書社

福みつで餃子を待ちながら『柿本多映俳句集成』の「夢谷」を読む。〈薔薇剪りしわが前をゆく救急車/柿本多映〉薔薇の色と救急車の回転灯とその傍らにある死の予感、〈いつせいに椿の落ちる椿山/柿本多映〉虚実はわきへおいて。椿の落ちる前を椿山と呼ぶの…

佐藤文香『君に目があり見開かれ』港の人

三月の有給休暇取得は難しいと知った日、佐藤文香『君に目があり見開かれ』港の人を読む。〈目薬の鋭利な水や夜の新樹/佐藤文香〉落ちる鋭利な水と枝先へ染みのぼり薫る水と。〈紫陽花や心は都営バスに似て/佐藤文香〉確かな順序による落ち着きを払った態…

千原こはぎ『ちるとしふと』書肆侃侃房

宅急便が呼び鈴を鳴らさない夜、千原こはぎ『ちるとしふと』書肆侃侃房を読む。〈わたししか音を立てない深夜二時ことり、とペンを丁寧に置く/千原こはぎ〉深夜の無音さを「ことり」と音で表現している。〈なにひとつ創生しない営みに「あい」なんて音ひび…

佐藤りえ『景色』六花書林

立春に、佐藤りえ『景色』六花書林を読む。〈君は少しこはれてゐるね夏の月/佐藤りえ〉夏の月とは破滅へ続く荒涼の色。〈横浜も新横浜も驟雨かな/佐藤りえ〉川崎と新川崎だと工場地帯情緒があり、横浜と新横浜だと港町ならではの異国情緒がある。〈茄子持…

上田信治『リボン』邑書林

浜松市民文芸第65集の詩部門で市民文芸賞をもらえると通知が来た日、上田信治『リボン』邑書林を読む。〈夜の海フォークの梨を口へかな/上田信治〉「夜の海」と梨の水気の距離感が夜の物語を織りなす。「口へかも」という口語的表現も良い。〈吾亦紅ずい…

奥名春江『春暁』文學の森

腹痛の続く夜、奥名春江『春暁』文學の森を読む。〈振り売りの空荷で帰る花菜風/奥名春江〉の振売は〈振売の雁あはれなり恵美須講/芭蕉〉で見られるような行商の形態、花菜風に心の軽やかさや春の穏やかさがある。〈さへづりの中なる始発電車かな/奥名春…

赤野四羽『夜蟻』邑書林

お世話になったけれど北へ飛ばされた悪い先輩と労組の会合で再会した日、赤野四羽『夜蟻』邑書林を読む。〈春猫の去勢にゆく車中狭し/赤野四羽〉「車中狭し」という実感が春猫の去勢へゆく心境と重なる。〈夜という場所に何度も月がある/赤野四羽〉時間の…

竹岡一郎『けものの苗』ふらんす堂

六連勤最後の日、竹岡一郎『けものの苗』ふらんす堂を読む。〈雀の子風俗嬢が米をやる/竹岡一郎〉コンビニ弁当の油でテカテカ光る米粒を箸で飛ばして「やる」。社会の底を覗く視線がある。〈僕の巴里祭ツナ缶開ける音だけして/竹岡一郎〉巴里の羅甸語地区…